生き物調査を仕事にしたいな!
河川水辺の国勢調査って聞いたことあるけどどんな仕事だろう?
って思っている方向けの記事です。
河川水辺の国勢調査とは?
環境コンサルタントの代表的な仕事の一つである河川水辺の国勢調査について解説します。
河川水辺の国勢調査は国土交通省の河川事務所及びダム管理所、各都道府県等の自治体が発注する、公共事業の一つです。全国の河川・ダムを対象にほぼ毎年実施されるものですので、生物調査の中でも予算規模は大きく、環境コンサルの代表的な仕事といっていいでしょう。
基本的に国土交通省や自治体の管轄である河川やダムを対象に生物調査を行います。対象となる生物は年によって異なり、生物によって調査サイクルが異なります。河川やダムでは以下の生物を対象に調査をしています。
・哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類、底生動物、クモ類、植物(維管束植物)、植生図、動植物プランクトン(ダムのみ)
5年に1回程度 …魚類、底生動物、植生図
10年に1回程度…哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類、クモ類、植物(維管束植
物)、動植物プランクトン(ダムのみ)
河川水辺の国勢調査の目的は?
国土交通省のサイトでは、「管轄の河川・ダムに生息、生育する生物の情報を取得し・・・・」と書かれていますが、これじゃあ、ちょっとよく分からないですよね。もう少し、具体的に説明します。
これらデータは、実際、河川・ダム事務所にて工事や事業実施の際に、その場所にどんな生物が分布しているか把握するのに使用されたりします。また、時折、大変珍しい生物が確認されたりすることもあり、地域のNPO団体と協働して保全活動したりするのに使用されたりします。
例えば、三重県で実施された河川水辺の国勢調査で、三重県内では絶滅したとされた「アゼオトギリ」が、県内47年ぶりに発見されて、当時話題になりました。詳しくはこちら(国土交通省三重河川国道事務所HP 「アゼオトギリ保全勉強会」)これをきっかけに地元の環境保全団体や学生と協働しながら、現在も保全活動が実施されていますね。
出典:国土交通省三重河川国道事務所HP 「アゼオトギリ保全勉強会」
この他、地元の大学の先生等が調査のアドバイザーとして、国や自治体に環境面から事業内容に助言する場としても機能しています。こういったつながりを持つことも目的の一つです。
✔ 国や自治体が管理する河川やダムに分布する生物情報の収集
✔ 河川やダム事業で工事する際に、絶滅危惧種などの保全の必要性の検討
✔ 国や自治体の地元の環境保全団体、学生、有識者とのつながりの場の確保
どんな調査をする?
河川水辺の国勢調査は、全国で統一的な方法で調査が実施されます。この統一的な手法については、国土交通省が河川水辺の国勢調査マニュアルが作成されています。
河川水辺の国勢調査マニュアルはこちら(外部リンク)
具体的にここでは、例として昆虫調査を紹介します。
昆虫調査の方法
ただ、闇雲に捕獲網を振って、昆虫を取るわけではありません。河川水辺の国勢調査では、決まった調査範囲を対象に、春、夏、秋の3季に任意採集法、目撃法、ライトトラップ法、ピットホールトラップ法により調査をすることが決まっています。
◆昆虫調査概要(河川水辺の国勢調査マニュアル)
項目 | 内容 |
調査方法 | 任意採集法、目撃法、ライトトラップ法、ピットホールトラップ法 |
調査場所 | 各河川、ダムの環境に応じ、複数の調査地区が設定されている。 |
調査時期 | 春、夏、秋の3回 |
任意採集法には、捕獲網を振って昆虫を採取するスウィーピング、叩き棒で木の上の昆虫を落として採取するビーティング、石を裏返して採取する石起こし等があります。ライトトラップ法は、夜間の光源に飛来する昆虫を採取します。ピットホールトラップ法は、プラスチックコップを地面と同じ高さまで埋め、落とし穴をつくり一晩たってから落ちている昆虫を採取する方法です。
調査場所は、決まっていて、河川なら河口から上流にかけてバランスよく配置されています。ダムは、周辺の植生をもとにきまっていたり、下流、上流河川も含めて調査地区が設定されています。
調査時期は、春、夏、秋の3季です。河川水辺の国勢調査は、5年又は10年サイクルで調査が実施されており、大体の場合、前回と同じ時期に調査を実施しています。
誰が調査する?
調査は、建設コンサルタント、調査会社、フリーランスの調査員で実施します。
実際の生物調査は、受注者である建設コンサルタントが主として実施しますが、建設コンサルタントの会社員だけで調査を実施していることはあまりありません。生物調査を専門とする「調査会社」、「フリーランスの調査員」の協力を得ながら実施しているケースがほとんどです。
というのも、生物調査には人手がたくさん必要で、また高度かつ専門技術が必要となるからです。生物の調査って、どんな時期にやってもいいものではなくて、生物季節に左右されます。ある程度、適した時期というのは決まっているため、どの会社も同じような時期に調査を実施します。ですので、人手が必要となるのです。また、生物調査といっても、哺乳類から植物まで幅広くの調査があります。全ての生物について詳しい知識をもっていることは困難なことです。ある程度、特化して植物なら植物、昆虫なら昆虫と皆それぞれの興味の対象があります。こういった点から、「調査会社」や「調査員」の協力を得ながら業務を実施しています。
建設コンサルタント会社
河川水辺の国勢調査業務を受注し、最終的な調査結果を発注者に納品する会社になります。発注者と直接やりとりしながら、調査計画を企画し、業務をスムーズに進めていくことになります。実際の調査では調査会社や調査員の協力を得ながらすすめますので、その調整も行います。発注者の要望を聞き入れながら、下請けを上手く調整しつつ、適切な成果物を納品することが求められます。当然、自ら調査を実施する場合も多々ありますので、生物に関する知識ももちろん必要となります。高度な技術が求められる職業になります。ちなみにですが、建設コンサルタントの会社員が取得を目指している資格としては、以下のようなものがあります。これら資格は、業務の「管理技術者」(受注会社の一番の責任者)になるために必須といわれる資格になります。
技術士、RCCM
調査会社
主に建設コンサルタントの下請け会社となり、実際に調査員を調達し、調査を実施しています。ほとんどの場合、発注者である役人との接触はありません。このような調査会社では、生物調査のための専門的な調査道具(捕獲器具等)、生活環境分析のための測定機器(水質計)等をそろえており、環境調査のプロフェッショナル集団といえるでしょう。多くの調査会社の会社員が取得を目指している資格としては、以下のようなものがあります。
生物分類技能検定、ビオトープ施工管理士、ビオトープ計画管理士、環境計量士、公害防止管理者 等
フリーランスの調査員
フリーランスの調査員は、その名の通り、組織に属することなく、一人親方として環境調査を行うプロフェッショナルです。例えば、植物を専門とする調査員や鳥類調査を専門とする調査員などがいます。環境調査は、時として非常に多くの人員が必要な場合があり、建設コンサルタントや調査会社だけでは人員が不足する場合があります。猛禽類調査は、多くの定点調査地点があったりして多くの調査員を短期間で確保する必要があります。そういった場合などにフリーランスの調査員に調査を依頼したりします。
フリーランスの調査員になる方法は、人によってさまざまですね。私の周りでも脱サラして独立してなる人や、学生時代のアルバイトの延長で調査員になる人もいます。
河川水辺の国勢調査は、大きな市場!
毎年全国各地で発注されることから、市場としても大変大きいです。私が個人的に調べたデータによりますと、国土交通省が平成31年度から令和4年度の4年間で毎年、発注した業務の総額※は、
平成31年度:約27.4億円 業務件数 146件 1業務平均 1,875万円
令和 2年度:約27.9億円 業務件数 153件 1業務平均 1,822万円
令和 3年度:約31.9億円 業務件数 146件 1業務平均 2,187万円
令和 4年度:約27.5億円 業務件数 132件 1業務平均 2,084万円
※出典:一般財団法人日本建設情報総合センター「入札情報サービス(統合PPI)」より加工して作成 https://www.i-ppi.jp/Search/Web/Index.htm (最終アクセス 2022 年 8 月 21 日) 国土交通省発注業務を対象。内閣府 沖縄総合事務局発注の沖縄県内の河川水辺の国勢調査は除く
でした。毎年27.4億円~31.9億円の市場、業務件数でみると、132~153件の発注がありますね。
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